この世界にもどってきたクロカゲは光の届かぬ「闇」のこちら側から世界を知る修行を始めます。

「闇」のふるえを感じることで音をつかみ、光のはじくパルスを「闇」を通じて受け取ることで物の色や形もすぐにある程度はつかめるようになりました。

 全ては「闇」にあらかじめ備わっている能力だったようで、影忍の修行とはその入力のコツをつかむことでした。

 もちろん、忍者としての体術の修行も「闇」の扱い方の上達に合わせて始まりましたが、この教官である夢瀬鬼忍隠鬼落斎という人は、ヤミオウに輪をかけて何も教えてくれない人で、実のところ体を動かすことが得意ではないクロカゲにはこれはちょっとありがたいことでしたが。


 しかし、ある日のこと。修行の時刻になって隠鬼落斎の庵を訪れたクロカゲでしたが、庵の主はどこへ遊びに行ったやら留守。かわりにそこに感じた人の気配に意識を向けると……。


 運命の出会いというか悪意というか、そこにいた人物こそ、まだようやっと歩けるようになったころのハンゾーでした。

 この幼児、何を考えているのか(多分悪質なことだろうけど)、放っておくと十中八九死ぬか、ケガをするようなことを始めるので、クロカゲとしても師匠の留守にその家族?であるらしい幼児にケガをさせるわけにもいかず、彼の行動を阻止するのに大わらわ。

 以後、毎日のようにそれがつづき、気がつけばハンゾー専属のお守りのようになってしまったのでした。


 もっとも、師匠の愛情のこもった修行(イビリ?)を毎日受け続け、行動力を日々増してゆくハンゾーのお守りをすることはクロカゲの体術をも飛躍的に成長させていましたので、これも隠鬼落斎なりの修行法だったのかもしれません。(いや単にめんどくさいこと2つまとめて相殺しただけでしょうけど)


 ハンゾーが忍の山の忍者としてはそこそこに力を付け始めたころ、(普通の忍者相手ならもう無敵クラスです)クロカゲもハンゾーのお守りから修行仲間となり、同時に二人きりの戦友となってしまいます。

 当時の忍の山の若手忍者のリーダーはブガンという乱暴者でした。自分に従わぬ者は師匠にすら牙をむくブガンにハンゾーは(当然)従いませんでした。力の差は歴然。クロカゲもブガンからどちらにつくのかの選択を迫られます。


土忍ブガン。体術においては文句無く忍の山の若手忍者トップ。
知力も高いが賢明に生きるなんてのは大キライなので好んで災いを呼び込んだりもする。
ハンゾーとは意外とお互い嫌いあってはいない。



注・隠鬼落斎に育てられりゃ、どんな人だっていい人に見えます。


 若い忍者の中でただ一人、ハンゾーの仲間となったクロカゲは当然のようにブガンの手下に追われることとなりますが、二人のコンビネーションはブガンの手下をしりぞけ、ついに忍の山の若手の強者集団、ブガン七人衆をも引っぱり出します。七人衆はさすがに強く狡猾で、ついに二人は分断され、クロカゲは七人衆の一人、水忍ボラン坊と戦うことになります。(ハンゾーはタイゲン他、5人を同時に相手にしていました)

 一見、マヌケに見えますが戦闘力においてはクロカゲをはるかに上廻るボラン坊を相手に、クロカゲは影わたりによる逃げを打ちますが、ボラン坊の大技、霧幻結界に光をはばまれ、術が使えなくなります。

 一方的に優勢となったボラン坊ですが、あのとうりのお人好しです。体が弱いと知っているクロカゲに攻撃などしてきません。元よりボラン坊の任務はクロカゲの足止めだけだったのです。

 ところが、攻撃に出たのは術すら使えないクロカゲの方でした。何としてもこの場を切り抜け、ハンゾーの元に駆けつけたかったのです。


ボラン坊も一応ブガン七人衆の一人でしたが、ブガンを含め他の連中とも仲間とか言った意識はなく、
ただ、有利だから組むといった程度のものでした。

 根が人なつこいボラン坊はこの時、とてもクロカゲとハンゾーがうらやましかったのでしょう。


 結局、ボラン坊はクロカゲの気迫に破れ、わざと敗北してくれたばかりか、霧の結界をも解いてくれます。

 そして、クロカゲが駆けつけたとき、ボロボロのハンゾーの前に立っている七人衆は木忍タイゲンと火忍エンゴウだけでした。


実際、タイゲンにとってブガンの腰巾着のようなエンゴウは気にくわない奴でした。
エンゴウの方でも実力No2のタイゲンを折りあらば闇討ちする気でしたので、組むには最悪のパターンでした。

 ちなみに七人衆の残りは、虫忍キリギリス、石忍ドウモン、氷忍シズリ、風忍カイナ、の4人。


 勝負はハンゾーの策どおり、ハンゾー、クロカゲの勝利に終わった……かに見えたのですが、タイゲンが倒れたその瞬間、戦場となっていた窪地を大量の土砂流が襲いました。土忍であるブガンの最後の仕上げでした。

 ブガンの土石流に対してハンゾーはまだ未完成の爆竜を使いますが見事に失敗。土石流をはねとばすことはできたのですが火薬縄が体にからみつき、自分自身が爆竜の炎から脱出できなくなったのです。

 早く逃げろと叫ぶハンゾーに対して、その場を動けないクロカゲ。何とか体を起こしたタイゲンにハンゾーは叫びます。



「そいつを連れて逃げろ!」

……あの性格のタイゲンがどうして逃げられましょうや。あわや3人焼死してしまうか! と思われたとき、空から降ってきたものがありました。大量の水と、それを巻き上げるだけで力尽きてしまったボラン坊。

 不完全な爆竜はその豪雨によって沈黙したのです。それは、クロカゲに新しい二人の戦友をもたらす慈雨でもありました。


 敗報を受け取ったブガンは黙り込んだ後に大笑し、ケンカはやっぱり面白ぇやな、という一言を残し手下の前から消えてしまったのです。

 ブガンは自分の求めるものが権力や兵力や、ましてや仲間などではなく、敵と戦いなのだと悟ったのです。

 ハンゾーはその後も何度かブガンの挑戦を受け、(あるいは受け流す)ことになるのですが、それはまた別のお話で。



 そんな用事の一つにハンゾーに下された抜け忍ナグラ抹殺の任務がありました。(くわしくはハンゾーの項で)任務を果たして帰ってきたハンゾーの落ち込みようは今でもクロカゲのトラウマになっています。

 後にハンゾーが単身派遣された江戸防衛の任務に結局、ついてきてしまったのも、この心配があったからでしょう。

 クロカゲは誰よりもハンゾーの心の強さともろさを知っているのですから。



未来

 魔装具騒ぎのあと、長崎へ行ったハンゾーを当然のように追ってゆき、そこでブガンとも再会します。

 そしてクロカゲ最大の敵となる闇使いコボクとの戦いも……

 ま、このへんは九州編で。

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