ジュウベイ十歳の初夏に妹のアヤメが生まれ、タジマ夫妻は再び江戸の屋敷に住むことになります。ジュウベイは翌年江戸の名門校、昌平坂学問所にシュウサクとともに入学、そこで彼に多大な影響をおよぼす、三人の先輩と出会います。

 一人は後に江戸防衛奉行を経て影大老となる女傑カスガ、一人は武士による富国強兵を唱える天才軍略家ショウセツ、最後の一人が知恵伊豆と呼ばれ、ヨシムネ体制の実質的守護神となるノブツナ(通称イズ)。三人の相反する個性はそのいずれとも親しくつき合えるジュウベイによって一つにまとまり、その時期は昌平校の第一黄金期と呼ばれるほどでした。


カスガ、ショウセツ、イズ。性格が比較的良い順です。

 ジュウベイにとっても父母と妹、尊敬すべき友と先輩に囲まれた幸福な時期でした。もちろん、幸福の象徴である妹が、可愛くないはずがありません。以後アヤメはジュウベイに過保護気味に育てられ、少々精神をゆがませることになりますが、根が実直なこの兄妹がそれに気づくのは例の魔装具事件まで待つこととなります。


 潜在的なゆがみはともかく、表面上の幸福はアヤメが五歳になった梅雨の日に終わりをむかえます。

 母、フジが戦乱の続く島原で消息を絶ったのです。その情報を得たタジマも子供二人を残して島原へと潜入し、やはり消息を絶ちました。ジュウベイはアヤメを残し島原へと旅立ちますが、途中で妙な同行人が四人、増えます。シュウサクとカスガ、ショウセツ、イズの昌平校連でした。

 島原をめざした五人ですが、途中、京都で後に紫衣事件とよばれる、タイクーンと怪僧タクアンによる、強力な魔力を秘めた道鏡の法衣と呼ばれる紫衣強奪事件に巻き込まれます。事件は結局、島原までもつれ込み、タクアンはジュウベイに倒され、タイクーンは譲位させられます。

 ジュウベイはアヤメとともに迎えに来たセキシュウサイに諭され江戸へ戻り、各々の道に向かって進むこととなります。

 ジュウベイは昌平校卒業後、父の跡を継ぎ、公儀隠密として幕府に取り立てられましたが、当初の評価は「とんだボンクラ息子」でした。人を斬らない、諸藩の失態の証拠を掴みながらそれを無くしてしまう等々、隠密らしからぬ失敗が目立ったからです。当然、降格、減給は当たり前、屋敷も失いアヤメと二人で武家団地住まいとなり、それでも態度を改める様子はありませんでした。もちろんアヤメも何も言いません。兄妹そろって戦乱の島原を見たアヤメには、兄の気持ちが良くわかっていたからです。


島原で兄貴と同じものを見たアヤメにはジュウベイの気持ちはよくわかっていました。
元々、質実剛健の家風だったので貧乏も平気です。
……でも、後に多少豊かになった時、ブランド物買いに走ったのはやはりこのころの反動かと。

 ですが、見ている人間はちゃんと見ているものです。将軍がヨシムネに変わった時、その教育係として権力を手にしたカスガによって、ジュウベイは将軍直属の公儀隠密にとりたてられました。ヨシムネも八歳の子供に過ぎない自分の言葉を真剣に聞いてくれるジュウベイが大のお気に入りとなり、以後、ジュウベイは将軍の心にそった仕事を次々なしとげ、ボンクラの汚名を返上します。隠密の同僚達の中にも自分の報告で多くの藩が取りつぶされ、人々が命を失い、また路頭に迷うのを嘆いていた者たちがいて、ジュウベイはそれらの者たちからの協力を次々取りつけ、ついに政治は武断より文治へと移ってゆくのです。

 もちろん、それがつまらなかった面白がりもいて、後に忍者帝国を作って幕府に戦いを挑んでくるのですが、それは本編でのお話となります。

 さて、魔装具編のあと、ジュウベイはみちのくに向かい、姿を消したショウセツを捜索することとなります。旅の途中で「北の神」を捜す旅を続けるシュウサクや、北の情勢を探るイズと再会し、北の地に武士による帝国を築こうとするショウセツと、それに協力する蝦夷奉行エノモト、剣士ヒジカタらと戦うことになります。

 これもどこかで描けるといいんですけどねぇ。

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