生いたち

 ジュウベイは両親とも公儀隠密の名家出身という、隠密界のプリンスとして生まれました。父、タジマは先代将軍ツナヨシの腹心で、母のフジとともに公務で全国を飛び回る日常でしたが、ジュウベイとアヤメが誕まれたあとの五年ほどは江戸勤めに転属して、良い両親でいてくれました。自分が倒れた後の用意をしておくことも務め、というタジマの思想によるものでしたが、子供にとっては、自分が物心ついてからの数年を目一杯愛してくれた両親、というイメージしかありませんから、ジュウベイは両親を愛し、尊敬し、自分も父の望みどおり、立派な公儀隠密になると五歳にして決意していました。


セキシュウサイ。
デフォルメはしていません。こういう人です。
手に持つ小枝で百や二百の侍なら軽くあしらいます。
 それを確認した両親はジュウベイを柳生神陰流の祖、セキシュウサイにあずけ、本来の任務に戻ってゆきます。当時、幕府にはまだまだ武断政治の風潮があり、隠密は何ら問題が無くとも諸藩に入り込んで事々をさぐらねばならなかったのです。

 さて、両親にとり残されたジュウベイですが、タジマの完璧な洗脳のせいか、本人の根性のゆえか、セキシュウサイの師弟愛の賜物か、全く迷うことなく、日々の修行に打ち込み、九歳にして神陰流双刀の型の大目録を受けます。神陰流はあらゆる戦況に対し、あらゆるタイプの対応術を用意しておく、実用性重視の戦闘術なので、武芸十八般をはるかに越える数の型があります。門下生は一応、全ての型を学ぶのですが目録を受けるのはそのうちの一つだけ。器用貧乏では役に立たないから、だそうです。


神陰流三人のタイプ。
一刀の型で、水の妖力を刀に封じたアヤメ、
無刀の型でナックルに火薬を仕込んだマタエモン、
双刀の型で電撃のカラクリを刀に装備したジュウベイ、
なんでもありである。

 普通は、十歳前後で、やっと自分が目標とする型が何なのか、が見えはじめるくらいなので、ジュウベイはやはり異例の天才だったといえるでしょう。

 ジュウベイが早くに双刀の型を選んだのには理由がありました。父のタジマから、自分が唯一敗北し、命からがら逃げ出すのがやっとだった剣豪がいたという話を聞かされており、その剣豪、ムサシが双刀の使い手だったということから、双刀=最強のイメージがなんとなく出来上がっていたためです。(タジマは、ジュウベイが最強だと思っている自分ですら、とてもかなわぬ相手がいると教えることで、上には上がいる、慢心するべからずと悟らせるつもりだったのですが、ウルトラマンを倒したゼットンを見てそんなことを考える子供はいません。ゼットンは強い! それだけです)

 ジュウベイが神陰流で目録をもらったころ、同じく将軍剣術指南役を務める、威刀流にも、天才少年剣士が現れました。


シュウサク(手前)とボクデン。
かたや怒っている所を誰も見たことがない弟子と、
かたや怒ってないとこを誰も見たことがない師匠。
ただし、どちらも表情一つ変えず「斬れ」ます。
 後に、北神威刀流を起こす、シュウサクです。自らの型にカラクリだろうが忍術だろうが妖術だろうが何でも取り込む神陰流と、剣技こそ唯一最強を唱える威刀流は当然、仲が悪く、ジュウベイとシュウサクは数度にわたって戦うことにはなります……が、反面、この二人は生涯の親友ともなってゆきます。

 春の日だまりのようなシュウサクと人の良いジュウベイの間に恨みの感情など起こるはずもなく、二人とも流派(というより威刀流のボクデン)によって仕組まれる立ち合いも楽しんでやっていたようです。

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