生いたち

 ハンゾーの過去を語るのに外せない、二つの歴史的事件があります。一つは魔王ノブナガが魔の力を現世に呼ぶためのゲートをこじ開けた「魔界通貫の儀」。もう一つはゲートを守っていた夢瀬マサナリの城が魔人アマクサによって落とされた「アマクサの乱」です。

 かつてこの国の大半を支配下においた魔王ノブナガはその支配を維持するために、九州の長崎沖に魔界へ通じる門を開き、魔徒フロイスとその部下である、四つの魔軍と契約を結びました。
 余話ですが、その時期を境にノブナガの性格や戦法が大きく変わっています
 戦乱を駆け抜けたノブナガは巨大兵器駆動閣を駆り、とにもかくにも豪快な戦いをする武将でしたが、駆動閣の要である、力王樹を自らの手で滅ぼした後は、人が変わったように魔の力や妖力を求める陰湿な武将に変わってしまったため、ハンゾーの時代では、ノブナガは二人いて、どこかで入れ替わっていたという説が有力です。

 さて、結局、ノブナガとフロイスは同志であったランマル、つまりハンゾーの師匠である、夢瀬鬼忍、隠鬼楽斎の手によって殺され、この国はヨシムネの祖であるイエヤスの手にゆだねられます。
 イエヤスがこの国を治めるにあたってまず頭を悩ませたのは、ノブナガが長崎沖に造った魔界への入り口、「出島」でした。出島からは魔界のものがぽろぽろとはい出し、人心を惑わすようなこともあったので、住人の勝手な脱走に頭を悩ませていた先方の支配者と示し合わせ、この地に封印の城が築かれることになりました。


 イエヤスの命により、この地を治めることになったのが闘将宮の宮司の血筋である、夢瀬家です。

 そして夢瀬家三代目夢瀬マサナリの時代に、こちらの世界に取り残された魔界の者や、その子孫たちによる反乱、「島原の乱」がおこりました。
 反乱軍は弱く、駿河大納言(皆さんの知るあの方とは別人です)ひきいる幕府軍に一方的に押され、反乱軍のリーダーであった神官アマクサは魔界の力(あるいは難民の魔界への避難)を求めて、夢瀬家を訪れますが、大納言の策略により、夢瀬との間に戦端を開いてしまいます。

 大納言は夢瀬の強力な忍者軍「夢瀬鬼忍」と、それをひきいる最強忍者、隠鬼楽斎と影大将、客として居着いていた剣聖ムサシらの力で強敵アマクサを消耗させ、勝利を確定的にした上で、争乱を巨大化させ、それを収めた自分の幕府における発言力を高め、次期将軍の座を狙っていたのです。

 大納言は影大将を懐柔し、自分の手下とした上で、アマクサの夢瀬上陸と同時に攻撃をしかけさせ、夢瀬とアマクサの戦いを始めてしまいました。
 さらに影大将はなぜか夢瀬の城に火を放ち、夢瀬は落城してしまいます。
 マサナリとその奥方ナルの方は城を枕に戦死。
 隠鬼楽斎とムサシは行方不明。

 魔界の力を手にしたアマクサは劣勢を盛り返し、以後、知恵伊豆こと、松平イズノカミの調停まで、七年に渡って島原の乱は続き、大納言は失脚、あいそをつかせた影大将に消され、とって代わられてしまいます。はい、我々の良く知るオチャメさんの誕生ですね。

 さて、夢瀬家には当時、産まれたばかりの双子がいましたが、彼らはどうなったのでしょう。

 そう、そのうちの一人、兄の方が我々の良く知る、もう一人のオチャメさん、ハンゾーくんなのです。

 え? 双子のもう一人? 行方不明の一人がムサシ?

 何を言ってるんです。もう一人は女の子ですよ。

 彼女は本編の時代、ギルゥと名乗って琉球王国で活躍していますが、それは全然別のお話です。

 ハンゾーは、この後、隠鬼楽斎こと師匠によって忍びの山に連れて行かれ、忍者としての修行をはじめますが、実は長々と書いてきた、これらの事々を本人はぜーんぜん知りません。
 友人のタイゲンが木の股から産まれたと聞いて、自分もそんなもんだろうと思っていました。
 自分にも親ってもんがいると気づいたのは、親と暮らした記憶のあるハグルマと出会ってからでした。

 で、師匠に訊いたところ、


で、二度とその話題を師匠にはふっていません。

 忍びの山でのエピソードもいろいろあるのですが、それは他のメンバーの項にゆずるとして、ハンゾーがここで学んだ特筆すべき事は「殺すこと」「殺さぬこと」です。
 一応、人は殺さない主義のハンゾーですが、そこは忍者です。人を殺めたことも記憶にあるのです。  ハンゾーが八歳になり、いっぱしの忍術も使えるようになったころ、師匠から抜け忍「不死身のナグラ」を追って殺すよう、命を受けます。

 道中、兄を探す少女クヌギと同行することとなり、結局、ハンゾーはナグラを倒します。
 で、おおかたの予想どおり、クヌギはナグラの妹でした。クヌギはナグラの後を追って命を絶ちます。
 ハンゾーは人を殺めることで背負う、巨大で、そして取り返しのつかぬことの恐怖をその心に焼きつけ、忍びの山へ帰ります。


が、その後で、彼の知らない一つの風景がありました。

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