幕府の圧勝に終わるかと思われた「魔者狩り」(当時はそう呼ばれていました。幕府側には戦争であるという意識さえなかったのです)は、アマクサの登場によって一変、幕府とアマクサ軍が正面から四つに組む「島原の乱」となったのです。

 島原は駿河大納言の息のかかった悪大名、マツクラの悪政のため、民衆が貧苦にあえいでいる土地でもありましたので、アマクサのもとには魔者だけではなく、民衆の義勇兵も次々と参入していました。

 アマクサ軍の中でも武勇に優れたツネナガ、自称「謎の粋なお兄さん」オニマルの力は凄まじく、正攻のツネナガ、ゲリラ戦のオニマルの両翼は幕府軍を率いるシゲマサを何度も敗走させました。


オニマル。ブラリと戦争を散歩し、何気なく百の兵を屍に変える呑気なワンマンアーミー。
昔の野武蛇(ノブナガ)の転生ともイエヤスの三男坊とも伝説はさまざま。
ただ大きな戦には必ず現れ、劣勢の方に付くといいます。
流派は真影流零の型。神陰流の源流にもなった剣術です。


 しかしなんと言っても、アマクサ軍最大の力は、長年の修練によって周囲の魔力を己の無限の中に取り込み、絶大な力として使役できるようになっていたアマクサ本人でした。この時点で魔界使徒もクバンダの他、九頭龍腑(クトゥルフ)、麻理鈴がほぼ自在に使えるようになっていましたので、人材的にはアマクサ軍が圧倒的に優位に立っていたと言えます。

 しかし駿河大納言も手柄のために始めた戦を劣勢のまま退くわけにもいきません。次々と無茶な増援を送り、アマクサ軍を疲弊させる手に出たのです。

 当初はそれでも互角以上の戦況を維持し続けたアマクサ軍でしたが、大納言が送りつけたとある増援軍によって総崩れとなったのです。幕府軍の新戦力、それはトキサダに率いられた夢瀬の軍勢でした。

 肉親を攻撃できないアマクサに、クバンダは魔王に人の心を売り渡せば情を失うことができる、と教えます。肉親への情と仲間たちへの情の板挟みとなって日に日に弱ってゆくアマクサを見かねてのことでした。

 アマクサは夢瀬に行く決心を固めます。

 激戦の島原をツネナガに任せ、アマクサは単身、夢瀬に潜入を果たしました。夢瀬を通って魔界におもむき、魔王ベイルと契約を結ぶために。

 魔界への入り口は夢瀬の城中にあり、アマクサはマサナリ一党による強固な防衛網を突破せねばなりませんでした。が、アマクサは気づいていました。夢瀬の守り手の誰一人として、自分を殺める気がないことに。

 トキサダの率いる大納言派の兵力がいないことを幸いに、マサナリはアマクサを迎え入れてくれたのです。

 アマクサは表面上の激しい攻撃の中、魔界への潜入を果たしますが、アマクサが人界を去ってのち、夢瀬家は影大将の裏切りによって滅亡の憂き目を見ることになります。

 これが世に言う「アマクサの乱」です。


影大将やや本気。マサナリの子、二人をかばいつつの隠鬼楽斎や、
世界の違う化け物とやり合っても面白くねーと思っているムサシでは手に負えず、
夢瀬鬼忍軍をはじめとする夢瀬の精鋭はほぼ潰滅してしまいました。


 さて、魔界に入り込んだアマクサをまず迎え撃ったのはベイルの息子を名乗る少年、後の四天士筆頭、マンショでした。ベイルの息子だけに強力な魔力を操るマンショでしたが、その攻撃の大半がアマクサには通用しません。この十数年の闘いで、アマクサは敵の魔力を逆用する技を身に付けていたのです。


マンショの力、まったく通用せず。
マンショの当時の得意技は周辺空間のどこからでも放てる五行の気弾だったのですが、
アマクサの方は自分の周囲に球状の空間断層を作って対応しました
(零距離の空間跳躍を高速でくり返すだけの技だそうで)。


 マンショは混乱します。アマクサの魔力は幼少時よりは増大しているとはいえ、見た目には人間レベルの範囲に過ぎません。前述の通り魔力の強弱による、絶対のヒエラルキーに支配される魔界の住人にとって、魔力的弱者が強者に敵しえるなどあり得ないことでした。

 特にマンショはベイルから奴隷の如き扱いを受け、父への憎しみをつのらせつつも逆らえないという半生を生きてきただけに、脆弱でありながら強大な存在に立ち向かえるアマクサの存在は奇跡にも思えたのです。この男が、果たして自分が心密かに待ち望んでいた奇跡なのか、マンショはそれを確かめるためにアマクサを父、ベイルのもとにいざなう決心をしたのです。

 アマクサは並みいる魔者に囲まれ、玉座のベイルと対面を果たしました。ベイルに魂を捧げようとする人間は、たいてい見返りにちっぽけな力を求めるつまらない生き物でしたのでベイルはやや食傷気味ではあったのですが、マンショに打ち勝った相手ということで多少は興がのったようです。


 魔王ベイル。この時点では魔界でも指折りの強力な実力者でしたが。

 ちなみにアマクサが横向きばっかしなのは、笙の資料がこっち方向からしかないせいでして……。


 アマクサの笙の音は強大な魔者たちを次々籠絡し、魔王ベイルに迫ります。ベイルはあらゆる恐怖に変化し、アマクサの心を乱そうとしますが(あまりに力の差があるベイルが実力行使でアマクサを排除しようとした場合、やはり精神的に敗北したことを意味しますので)、アマクサは小揺るぎすらしません。マンショは驚愕と感動をもってアマクサを見つめていましたが、どうやら他の魔者たちもそれは同様だったようで、玉座にひざまづく者たちの意識は今や、彼らの王ではなく、無謀な挑戦者へと向けられていました。

 最後にベイルはその姿をアマクサの継母に変え、アマクサの心に襲いかかりましたが、アマクサはそれさえもはねつけます。いよいよ打つ手のなくなったベイルは突然大笑し、アマクサとの契約に応じようと言いだします。

 誰の目にも魔王の敗北は明らかでした。

 アマクサは自分の魂を魔王にあずけ、かわりに求めるものを問われますが、アマクサはこれ以上の力を必要としてはいません。アマクサは自分に視線を向けるマンショを振り向き、声をかけました。


 主従の始まり。どちらにもさほど深い考えはなかったみたいで。
マンショに言わせれば、全ては原初より定められたことだそうです。
ノーマルAは苦笑しながら聞いていますが
(ノーマル・メイクとも運命論者ではありませんから)。


 アマクサの帰還に付き従ったのはマンショだけではありませんでした。魔界では充分に力を示せない時食、時吐の兄弟、ワールドモス、ゲイト、アノマロカリス、マガジンに加え、伽沙鈴と名を変えたベイルの腹心ベルゼブルがアマクサの配下となったのです。キャサリンはベイルの命によってアマクサを監視するため送り込まれたのですが、ベイルは気づいていませんでした。キャサリンがすでにアマクサに心服しきっていることに。

 さらに魔界の出口では、異なる領域の魔王アスタロトが協力を申し出てきます。ただ、彼の場合は心服したからというよりは、この特異な人間を手に入れたいという欲望からでしたが。

 そしてアマクサが人界に戻ったとき、夢瀬の悲劇はすでに終わりを迎えていました。

 影大将によって倒されたマサナリは、アマクサに魔者たちの将来を託して息絶えます。

 そして夢瀬の城はトキサダの軍勢によって包囲され、トキサダは全てをアマクサの乱として片づけるため、城に存在する命、全てを消し去ろうと攻撃を続けていました。

 アマクサは両手にこびりついたマサナリの血で、みずからの顔に魔としての紋章を描き入れ、己の中の無限に周囲の魔力を取り込み、絶大な魔力を身に付け、真の魔人アマクサとなり、トキサダの軍勢を一瞬で血の霧に変え、目前に現れた継母を愛しみながらくびり殺すのでした。


真・アマクサにあるのは「自分の愛する者」それだけです。
飽きてしまった者を消滅させるのは「自分に愛されなくなった者」
にあわれみを感じるから。彼なりの慈愛なんでしょう。



麻理鈴の絵日記より。マンショくんどうやら本格的に惚れたのはこの時らしいです。


 アマクサの帰還と夢瀬の滅亡により、再び力を盛り返した島原軍は、戦況を幕府軍と均衡させたところで行軍を停止し、戦線を膠着させます。

 一気攻勢を主張するツネナガをアマクサが止めたのです。魔の紋章をぬぐったアマクサには、なぜか人の心がしっかり残っていたのです。

 アスタロトによれば、ベイルは特異なアマクサなる人間の魂を喰らうことにためらい、封じるにとどめていたそうで、アマクサの魂は今だ体とつながっているのだそうです。

 ただ、本来の魂の座は空洞になっているので、何らかの方法でそこを埋めてやれば人の魂の影響は少なくなるのだそうです。マンショがメイクアップによってこれを成し遂げるにはまだ数年を必要としますが。

 戦線が動かないことを確信したアマクサは留守をツネナガにあずけ、周辺国にひそむ魔の者を集める旅に出ました。

 そして奄美の島で怪物マジムンに喰われる寸前だった、マジムンと人との間に誕まれた二人の少年、ジュリアンとマルチノを拾います。この後、島原で拾われた人間の少年ミゲルを加え、アマクサ四天士が揃い、ベイルが放った最強最悪の魔者、那羅(ナーラ)をも従え(四天士、十一使徒が全ての力を使い切る壮絶な戦いでした)、後のアマクサ軍団の根幹が完成します。


アマクサ魔法王国。
リーダーがタイプチェンジすれば途端にお笑いライブ集団に。どっちが本質かと訊かれれば……
多分、本人たちにとっちゃどっちも楽しいんじゃないかと。


 この強大な島原軍に対し、幕府軍にも影大将の助力によりただならぬ力が備わっていました。

 正面から戦えばその余波は尋常では済まない。

 それを察知したアマクサは戦線の維持だけを心がけ、侵攻を提唱するツネナガと対立することになります。

 ツネナガには影大将、後のスルガ大納言が内包する恐るべき力を読むことができなかったのです。

 そしてツナヨシの二十二年、将軍ツナヨシが病に倒れ、忠臣ヒコザに託された遺言により、わずか八歳の紀州家のヨシムネが将軍となり、駿河大納言は突然一線を退いてしまいます。

 ヨシムネの命により、講和の使者として若き老中、ノブツナが島原にやってきました。

 ノブツナの見事に計算された講和条件をアマクサは全て飲み、幕府と島原との間に終戦協定が結ばれました。が、それを不服とする者が二名いました。

 ツネナガとマンショです。二人の目にはアマクサがノブツナの手管に取られているようにしか見えなかったのです。


知恵伊豆ことノブツナ。このころすでに性格の悪さが顔に出てます。
ゆえに彼に心を許す者など誰もいません。
お人好しのジュウベイさんをのぞいては。


 一応、ノブツナの条件がこちらにとっても最善であることはクバンダによって彼らにも説明されましたが、九州に魔者の国土を作ろうと夢見ていたツネナガには、亀島一つを魔の領地とするという条件は認められるものではありませんでした。

 しかし現在、幕府を怖れさせる戦力を持っているのはアマクサ個人でしかありません。ツネナガはその時、フと気づきます。

 なにより自分は力を得たアマクサを妬んでいるのだと。

 ツネナガはその日を境にアマクサの前から姿を消しました。人の噂によれば東北の魔の領域に向かい、そこより魔界へと旅だったとのことでした。

 オニマルも遊びが終わったとばかりに、アマクサの元から旅立ち、アマクサ自身も血と魔力に汚染された島原の土を固めて空中城塞奇顔城を作り、仲間とともに西の空へと消えたのでした。


オニマルが次に姿を現すのは、やはり戦場でしょう。


 アマクサが再び江戸の世界へ姿を現すのはそれより三年後、マンショのメイクアップ術が完成をむかえた正月のことでした。

以下は本編で。



未来

 九州にあらわれたハンゾーと新たなる魔王ヒミコ、アマクサはその両者と三つ巴の戦いを行うことになります。このお話は、いずれ九州編にて。

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