生いたち

 ジャキマルの誕まれについては何もわかっていません。

 本人にも親の記憶がほとんど無く、地獄のような所で鬼のような男、ムサシに拾われた。くらいにしか覚えていなかったようです。

 ムサシが後に記した自伝的兵法書「ゆかいなまんが五輪ちゃん」によれば、彼がジャキマルと出会ったのはアマクサの乱のあと、すぐのことでした。


「ゆかいなまんが五輪ちゃん」各巻で絵柄が違うのはムサシが飽きっぽいから。
絵柄が古い?……江戸の話だし……。

 ちなみにムサシの書をひもとけるのは忍耐と根性と知力と、
ここには必ず有意義な内容が書かれていると思う信念を持つ者だけです。
−−大抵の人は最後の一つで挫折しますが。

 アマクサの乱のドサクサに夢瀬家が滅び、当主マサナリの人柄が気に入って草鞋を脱いでいたムサシも風来坊に戻ることになりました。夢瀬の子供たちを連れて脱出した同じ食客の隠鬼楽斎が多少気になってはいましたが、それも、あの双子のうちの一人を連れ出して、将来、互いに殺し合いでもさせれば面白かんべぇなぁ、程度のものだったようです。

 やはり同じ食客だった影大将に言わせれば、ムサシの趣味は手間食うわりに美味しいところが一瞬で終わるんで切ないんだそうです。

 で、そういう思いをかかえて諸国をうろついていたムサシですが、上州の寒村でとある風景を目にします。
 山間の小さな村を襲った山賊が生き残りの村人を虐殺しながら酒盛りをしているところでした。
 普通なら、そんな見慣れた風景に気を止めるムサシではありません。山賊も酒も彼的には全然マズそうだったからです。
 ですが、ふとムサシの視界に引っかかるものがありました。三歳になるかどうかという幼児がその手に短刀を持ち、まだ青年らしい村人と向かい合っていたのです。
 流れてくる声に耳を向けると、どうやら幼児と青年は父子のようでした。


五輪ちゃん 水の巻

基本的に自分さえカッコ良く(自分的に)描けりゃ、
ムサシさん、あとはどーでもいいようです

 ちょっとだけ面白かったのでムサシはお弁当を広げて見物をすることにしました。タコの宇院菜とウサギのリンゴが入ってます。今朝、自分で作ったものです。(あくまでムサシの書いた五輪ちゃんを元に話をしています。変なのはムサシのせいです)ムサシがタコの首を引きちぎるようにウインナをかみ切った時、青年が手にした刀を振り上げ、幼児に走ってゆきます。ムサシは顔をしかめました。なぜなら−−青年はなんとなくかまえられた幼児の短刀に向かって飛び込み、自ら絶命したからです。あーつまんねー。

 そのあと、幼児の母らしい女、姉らしい少女も父親と同じことをしました。ムサシは丁度、お弁当が無くなったこともあってムクれています。殺し合いは殺し合うから面白いんです。自殺なんてちっともエキサイティングではありません。一人、生き残った幼児も呆然と立っているだけです。

 もういいや、行こ。ムサシがそう思ったときです。思わぬ展開がありました。よーし、よくやった小僧、ほうびに家族ンとこ連れてってやる、とか言いながら山賊の頭らしき男が幼児に近寄ります。片手には今まで何人の血を吸ったのかわからないくらいの戦斧が握られています。

 山賊が約束を守らないのなんて、魚が水の中にいるってのと同じようなものです。守らせたいなら力づくでも守らせるしかないんです。ムサシはもう、そっちの方を見る気も無くしていました。ところが……。

 腐った雑巾とドンゴロスを同時に引き裂いたような悲鳴があがり、山賊の頭のノドからぴうーと血が5mくらい噴き出していました。

五輪ちゃんより

仕方ないので山中がアシスタントしました。
ちなみにムサシ先生はこの角度のカオしか描けないよーです。

 幼児は約束を力づくで守らせようとしたのです。

 自分の親兄弟を手にした刀で失い、そして自らの意志で人を殺した幼児。(この時点では男だか女だかムサシにはわかりません)ムサシは渇望を覚えました。子供のころ動物屋で派蒸太の子供を親にねだったのと同じくらい、あの子供が欲しくなったのです。

 ようやっとムサシは傍観をやめ、行動することにしました。

(絵が少ないですって? こんな書き方してるからいいもんの、惨殺、血まみれ続出の風景をビジュアルで見せるのはおきらく忍伝の世界にはちょっと……)

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